Research 研究紹介


 近年,世界的な人口増加に伴う食料需要の拡大に伴い,良質なタンパク源として,畜産物への需要が拡大傾向にあります。その一方で,ウシから排出されるメタンガスに伴う環境問題や,食料と飼料の農地をめぐる競合など、畜産に関連する多くの社会問題が課題として挙げられます。そのため,単一的な視点から生産効率の向上のみを追求するだけではなく,分野横断的な視点から畜産由来の環境負荷を緩和するような多面的なアプローチを行うことにより,安心・安全で持続可能な畜産業の確立を目指す必要があります。

 本研究室では,疫学的アプローチやデータサイエンスを駆使して,以下のプロジェクトに取り組んでいきます。これらのプロジェクトを通じて,「食料資源の確保を目的とした持続可能な畜産業の確立」に貢献できる研究成果を挙げ,社会の発展に貢献していくことを目指します。


① データサイエンスを活用した安心/安全な養豚生産の確立

養豚生産農場では,育種改良による多産系母豚の導入,多頭飼育化に伴う群飼育の導入,ICT機器の導入など,管理方法が急激に変化してきています。しかし,多産系母豚への管理方法の確立,群飼育化における適切な飼養管理の設定,ICT機器の費用対効果など未だに科学的に明らかにされていない部分も多くあります。また,飼育管理の方法に関して,近年は動物福祉の観点より,従来の飼育方法に対する改善も社会的に求められてきています。そこで,データサイエンスを駆使した科学的根拠に基づく「データ駆動型養豚」を確立するために,生産現場におけるICT機器の実地試験や,生産性や環境情報の疫学データベースを活用した適切な飼養管理の開発に関する研究を行い,安心/安全な養豚生産の確立を目指します



② 高収益・低環境負荷・労働負担軽減・アニマルウェルフェア向上を目指した家畜の飼養技術の開発

近年,SDGs(持続可能な開発目標)の推進が世界的に進む中で,畜産においても,排出温室効果ガスであるメタンガスのウシからの排出や家畜排泄物の環境負荷などが課題となっています。また,少子高齢化に伴い,畜産に従事する方への労働負担の軽減も求められています。さらに,安心安全な畜産物を生産するために,家畜の快適性を確保したアニマルウェルフェアの導入も求められています。そこで,畜産業を営む上で,生産性や収益性を確保した上で,これらの低環境負荷・労働負担軽減・アニマルウェルフェア向上が実現できるように,疫学的アプローチやデータサイエンスを駆使して,適切な飼養技術の開発を目指します。



③ 疫学的アプローチによる家畜の感染症の発生予防に資する防疫体制の確立

家畜の感染症の発生は,家畜生産における経済的な損失だけに留まらず,感染症の制御に使用する抗菌剤投与に伴う薬剤耐性菌の発生リスクの増加に繋がる恐れがあります。これらの問題を解決するためには,ヒト・家畜・環境の多面的アプローチを行う必要があります。家畜の側面では,抗菌剤投与量を減少させるために,防疫体制の強化による感染症の侵入予防やハイリスク因子の特定による疾病の早期発見・早期治療が求められます。そこで,家畜の生産現場において問題視される様々な感染症を対象として,感染伝播経路やリスク因子の特定を行い,重視すべき防疫体制を明らかにするともに,地域防疫に資する防疫体制の確立を目指します。